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2014年10月5日日曜日

「○のち晴れ、時々 Merry-go-round」序盤公開(第10回)


「○のち晴れ、時々 Merry-go-round」序盤公開(第10回)






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○のち晴れ、時々 Merry-go-round」 第10回




「その後、死のうと思った。何度も何度も、本気でな……。けど死ねなかった。指を千切られて死ぬ準備が出来なかったからじゃあない。
 ……あれを見たからだ……」

「? あれって?」

「……あの時な、死のうと思って、街をフラフラ歩いていたんだわ。どこか死ねる場所はないか、楽に逝(い)けるとこはないかってな……。けどその時に、歩いている一人のサラリーマンを見た」





「そいつは普通のサラリーマンだった。年は三十くらいか……。まあ、どこにでもいるようなサラリーマンだ。グレーのスーツ着て、カツカツ歩いてたよ……。けどな、そいつの指。そいつの指、無かったんだわ、右手三本。しかも、捻じ切られた痕まであった……。思わず駆け寄って聞いたよ……。
[すみません、あなたの指、どうしたんですか]ってな。そしたら怪訝(けげん)な顔して言われたよ。
[何を言っているのか分かり兼ねます]って。いや、俺もしつこく食い下がったよ。何にしろ、自分と同じ境遇(きょうぐう)の人間がいるって事が嬉しかったんだろうよ……。で、聞いたんだ。
[私の指を見て下さい! あなたと同じですよ! あなたもやつらにやられたんでしょう? 大変でしたよね! いつやられたんですか? どこでですか?]

「そしたら、持ってたバッグで俺を小突いてはね除(の)けやがった。バランス崩した俺は、その場にへたり込んでしまったんだわ。で、冷静になってふと回りを見渡すと――いるわいるわ、指千切られた人間がそこら中にいやがる。それは、男も女も関係なく存在したよ」

「ええっ!!?? そ、そうなんですか!?」

「ああ、けど俺と違うとこは、みな自分の指の状態に気付いていないって事だった。その後も数人に声かけてみたが、みな反応は一緒。気がふれた人間見るような目で見やがる。いやまあ、それはいいとして、何故みなが気付かないのか理解出来なかったよ」

「ちょ、ちょっと待って下さい! 指を千切られた人間がそこら中にいるんですか? この街に?」

「ああそうだ。さっきの出来事は、この下の商店街でのことだ」

「ええ!? それじゃあ……、えっ? でも、みんな気付きますよね普通は。指が無いんですから気付くハズですよね?」

「まあ、普通に考えればそうだろうな。俺は気付いた訳だし」

「ですよね! 何故気付かないんですか!?」





「いやだから、俺にもそれは分からんよ」

「そ、そうですか……。と、とにかく、指を捻じ切られた人間が他にもいるって事ですよね。その基準は何なのですか? そうでない人との違いは?」

「んー。どんな人間が千切られているかってのは、よく分からんね。普通に付いている人も大勢いたよ。それに、統計取ってまとめたって訳じゃあないから、簡単には分からんなあ」

「そ、そうですよね……。けどまあ――あっ!! えっ? じゃあ、も、もしかして、私の指、私の指もないんですか!?」

「いやあるよ。黒い兄ちゃんはな」

「あー、そ、そうですか……。いや良かったです。そうなら良かった。自覚無いですし、おじさんから見てどうなのかなと思いまして……」

「まあ、こんな話すれば、その方向へ進むのも無理はないよな。けど、安心しろ。兄ちゃんは大丈夫だ」

「ですか……。良かったです……」

 おじさんは、黄色いシミが付いた座布団に、ドカっと腰を下ろした。

「でもな、色んな人間見て、一つだけ分かった事があるんだわ。それは、俺と一緒で、年齢に応じて千切られた本数が決まっている風(ふう)だった、ってことだ。年食ってる人間はかなりの本数千切られてたし、若い奴は本数が少なかった。とにかく、年齢で千切られる本数が決まってる感じだったな」

「年齢……ですか……」

「そう、年齢。けどやっぱり、彼らも自分の指の状態に気付いてはいない。俺からしてみれば、彼らの指は欠損している。けど、彼らから見れば、自分の指は存在している。いや、勿論思ったよ。俺の目がおかしくなったのかもしれないってな。
 けどそれなら、千切られた人間とそうでない人間の区別がつかなくなるだろ? でもそうじゃあないんだ。ちゃんと区別がつく。あの人は大丈夫で、この人は欠損(けっそん)してるって具合に、見れば一発で分かるんだわ。ちゃんと千切られた痕(あと)まで見えるんだからな。間違いはしない」

 私は彼の方を寸分の疑いなく見つめていた。彼のその眼力と話の内容からして、私が先程まで感じていた[おじさんの指は存在している]という現象ですら、疑えて見えていたのだ。彼のトークが素晴らしいのか、はたまた、私の経験不足なのか。私の常識はどこかへと隠れてしまい、おじさんの話だけがそこに存在していた。

 そもそも、彼の話をどこまで信用してよいのだろうか? 彼は自分の指を九本千切られたと言う。しかし私の目から見れば、それらは現存する。彼の目から見れば、指を千切られた人間が存在する。しかし、その人間はその事を認識していない。どちらが本当で、どちらが嘘なのだろうか。それすら分からないので、彼の話のどこからどこまでが真実なのか、なんて事は分かるはずもない。





 私から見て真実だとしても、他人から見れば虚偽(きょぎ)でしかないのかもしれない。その認識をお互い言葉として出したところで、その言葉の真意までは読み取れない。当の本人ではないのだから。

 だが、歩み寄ることは出来る。そうする事で、相手に対する自分の好意、つまり、意志を表すことが出来る。その[好意の意志]こそが重要なのだ。普段からそう感じていた私だが、ことこの異様な場においては、否定でしか私の意志を表す事が出来なくなってしまっていた。

「いやいや! おじさん! 間違いはしないっておっしゃいますけど、私からしたらおじさんの指は存在してますし、街の人間はみな普通ですよ! おじさんががおかしいだけなんじゃないですか?
 そうですよ、おじさんのどこかがおかしいんです。でないと、道理が合わないじゃないですか。あっちはこうで、こっちはこう。合ってないんですよ。ズレてます。それはおじさんがズレてるからですよ! しかも、やつらの一人を閉じ込めたって事ですけど、あれ、やっぱりシミですよ。どう見てもそう。そこからしておかしいです。まずはその変な自己都合を止めて、普通に物事を見る事から始めた方がいいかもしれませんよ?」

「それにね、それにですよ。大体私は、ですね」

「私は……単なる※※※ですよ。※※※※※










以上で序盤は終了です。


ラストにおける主人公の言葉は伏せ字にしていますが、本編ではしっかり表現しておりますので、どうぞご安心を。

そして、この主人公の言葉を以て、驚愕するような展開ストーリーに移りますので、気になる方は本編でお楽しみ下さい。

また、「○のち晴れ、時々 Merry-go-round」の簡単な概要を記事におりますので、こちらも閲覧頂けると幸いです。


それではまた。


小説概要についてはこちらの記事からどうぞ



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4 件のコメント:

  1. にんにく人2014年10月8日 19:23

    いいとこで切るなあああああああ
    って嘘。もう買ったしwww
    まだ全部読んでないけどまさかあんなことになるとはなww予想外だったわww

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうごさいます。
      併せて、ご購入感謝の極みです!

      なにぶん拙著ではありますが、ご拝読頂けるだけでも嬉しいです。
      また何かございましたら、こちらのコメント欄をご利用下さい!

      削除
  2. 第10回まで読ませてもらいました。
    やはりこの先が気になりますね。展開的にはホラー路線でしょうか。
    なんにせよ興味をそそられる展開で面白かったです。
    また別の小説等のアップがありましたら、読んでみたいと思います。ありがとうございました。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。
      そして、返信が遅くなり大変失礼致しました。

      作家卵さんがおっしゃる通り、前半はホラー展開になります。
      が、中盤から後半にかけては、また別のジャンルに相当するのではないかと個人的に思っております。

      今後、別の小説や新作小説の掲載も考えておりますので、またお立ち寄り頂けると幸いです。

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